光ファイバーは、一般家庭のインターネット回線から自動車、医療機関、通信など、日常生活のさまざまな場面で利用されています。
今日、特殊光ファイバーの普及により、自動車の衝突回避や傷跡がほとんど残らない精密手術、眼病診断をはじめ、発電所の温度変化や大きな橋のひずみの遠隔感知などが可能になりました。 これら多くの用途では、従来の銅線に代わり、データ伝送速度が速く軽量なファイバーが導入されています。
すべては、一部のエンジニアが細いガラス繊維を束にした光ファイバーを使えば、光を効率的に伝送できることに気づいたことが始まりでした 。
各用途で必要となる光ファイバーの種類はさまざまで、 電気通信用途に使用されないファイバーは一般的に総称して「特殊ファイバー」と呼ばれています。
特殊光ファイバーの最も重要な用途としては、多くの産業や技術に広く影響を与えているという点で、レーザ光の生成および増幅への応用が挙げられます。
この特殊化は、主に希土類元素により実現されています。 ガラスには、これらの元素の1つまたは複数が少量含まれています。 希土類ドーパントの使用により、特殊光ファイバーに依存する各種用途で必要とされる、波長や出力のより正確な制御が可能となります。
拡大する特殊光ファイバーの需要
希土類元素とは、ネオジム(Nd)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、ホルミウム(Ho)、イッテルビウム(Yb)などの金属元素の総称です。
希土類金属をドープしたファイバーは、産業、理科学、医療、航空宇宙などの用途に最適化されたレーザの励起媒体として機能します。
これらのレーザの最終用途は、電気自動車に使用される加工が困難な金属の溶接、精密レーザ手術、医療機器のマーキング、リモートイメージングなど、多岐にわたります。
Coherentは、このタイプの特殊光ファイバーの製造において世界をリードしており、高まり続ける需要に対応しています。そのファイバー製造量は年間11,000 km(6,835マイル)以上にのぼり、これは北極から赤道までの距離を超えるものです。
従来の固体レーザと熱問題
希土類の中でもネオジムは、実際、何十年も前からレーザに用いられています。
レーザの開発初期に、ネオジムイオンレーザをガラスや、ガーネット、バナジウムなどの特定の結晶材料に添加すると、ドープされた材料が光を吸収し、そのエネルギーを強力なレーザ光として再放出することが発見されました。 この光の吸収を「励起」と言い、長年にわたりフラッシュランプが励起源として用いられてきました。
これらのレーザにより排出される廃熱を低減するため、Coherentをはじめとするレーザメーカーは、ランプを半導体チップ(半導体レーザ)に置き換え、LD励起固体レーザ(DPSS)を開発しました。
しかし、廃熱は削減できたものの、熱を完全に除去するには至らず、 依然として結晶の中心から周囲の冷却水へと熱を移動させる必要がありました。
こうした状況を打開したのは、電気通信分野での発見でした。
未来を形にするファイバー
当時、光ファイバーを用いた長距離通信の世界では、エンジニアたちが一見無関係に見える、光通信技術の問題に直面していました。 光信号はファイバー上を伝搬するうちに少しずつ欠損し、やがて完全に喪失するため通信距離に制限があり、長距離(大洋横断)通信の実現は壁にぶつかっていました。
その解決策が見つかったのは1987年。エルビウム添加ファイバー増幅器(EDFA)の開発に端を発します。
その後の研究により、エルビウムイオンレーザをドープしたファイバーが、半導体レーザの光を吸収し、レーザ増幅器として機能することが実証されました。 具体的には、EDFAはファイバーを通過するあらゆる光信号を直接増大(増幅)させます。 この全光信号増幅が、現在のデジタル連結されたグローバルな世界を実現する鍵となりました。
ファイバーレーザおよび増幅器
ファイバーレーザ増幅器は、理科学および産業用途レーザを高出力化すると同時に、それに伴う冷却問題を解決する道筋を示しました。 その後、同種の希土類でドープしたさまざまな特殊ファイバーが開発され、ファイバーレーザや高出力増幅器の製造に使用されるようになりました。 数ワットからキロワットまで、あらゆる出力に対応したこれらのファイバーベースのレーザシステムは、現在では、ドリリングや切断、溶接、マーキングなどの高効率材料加工用途をはじめ、極めて幅広い用途に使用されています。 実際、一部の用途ではファイバーレーザが主流となっています。
図1.(上) 可視光、赤外光およびアイセーフ波長のスペクトラム。
ファイバーレーザが主流となっているもう1つの分野は、医療用途です。 たとえば、ツリウム添加ファイバーは泌尿器科および砕石術で広く使用されています。その理由は、Tmファイバーレーザはパルス周波数が高いことから、結石をより小さく砕石でき、患者の不快感の軽減と迅速な回復につながるためです。
波長1400 nm付近では、水による強い光吸収が始まるため、これより長い波長は医療用途(外科的アブレーションなど)に適しており、長距離の伝送にも対応できます。 この水による光吸収の特性から、一般には1400 nm がアイセーフレーザのカットオン波長とされています。これより長い波長は、眼球表面の水分に吸収されて網膜まで到達しないため、人間の目に安全です。 そのため、これらの不可視波長はLIDARイメージングや自動車の安全システム、自律走行(自動運転)車などの革新的な用途でも活躍しています。
多種多様な添加ファイバー
図2は、一般的に使用されている5種類の希土類元素イオンレーザ(Nd、Er、Yb、Tm、Ho)の波長特性をまとめたものです。 発光波長と必要な励起波長の両方を確認することができます。 Ybは、発光帯域が比較的広く、50フェムト秒の短パルスのモードロックファイバーレーザや、数百フェムト秒(fs)のパルスを用いたCoherent Monacoシリーズなどの増幅(高出力)システムに対応しているため、超短パルスレーザ(USP)で人気が高まっています。
図2. 一般的に使用されている5種類の希土類元素イオンレーザ(Nd、Er、Yb、Tm、Ho)の波長特性。 赤い曲線はファイバーに使用されているガラス母材の減衰量を示す。
上記5種類のドーパントに加え、CoherentではErとYbの両方を共添加した特殊光ファイバーも提供しています。 Erは励起媒体として作用し、ドーピング濃度に応じて1550 nm付近で発光します。 それに対して、Ybは光吸収体として作用し、1ミクロン付近での不要な自然放射増幅光を防ぎ、アイセーフなレーザシステムを実現します。
Coherentの添加ファイバーには、シングルモード(SM)、マルチモード(MM)、偏光面保持(PM)、ラージモードエリア(LMA)ファイバーがあり、開口数(NA)とコア径を選択することができます。 また、シングルクラッド、ダブルクラッド、トリプルクラッドファイバーなどの充実した製品ラインを揃えています。 このように、添加ファイバーの種類は実にさまざまです。 また、Coherentでは耐熱性に優れたファイバーや、航空機のナビゲーション、衛星通信をサポートするファイバーなど、カスタムファイバーの製造も行っています。
身近で活躍する希土類
添加ファイバーの誕生とそのレーザ/レーザ増幅器への応用は、ある問題に対する取り組みが別の問題の解決に結びつくという、エンジニアたちの努力と幸運が重なった結果実現しました。 そうして生まれたのが、希土類元素のドーピングによって支えれた出力の強化可能なレーザアーキテクチャです。
特殊ファイバーのカスタマイズに興味をお持ちの方は、shop.coherent.com/をご覧ください。